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活は彼には苛酷すぎました。何回か面会しましたが、憔悴しきった彼の姿を見るにしのびず、再び、私達の家に連れて来ました。けれども、それは、只、かわいそう、という同情と自分達ならもっとうまく出来るという自負心から出た事で、D君の気持や心の変化をよく理解した結果ではありませんでした。失望や孤独、大人の身勝手さなどによってD君の心は大人への不信感で一杯でした。その結果、私達はD君をさらに深く傷つけ、福井市の児童相談所へ返すことになりました。
D君は老人ホームと一緒になった施設に入りました。彼はここで、どういうふうに育てられたのでしょうか、今でも不思議に思うのですが、一年後に面会に行った時には、穏やかで優しい少年になっておりました。中学を卒業すると、青果市場で働きながら定時制高校へ通いました。時おり、果物を送ってくれました。音信がとぎれる事もありましたが、お互いに忘れた時はありません。三年前、自分と同じ国の素敵な女の子と結婚しました。その時、私がキリスト教式で司式をしました。また家内と私を両親として親族、知人に紹介してくれました。今、大津市で板前の仕事をしております。
先日、私の次女の結婚式がありました。D君一家(娘が二人おります)も親族の写

 

 

 

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